学術学会バックナンバー

第21回日本医学看護学教育学会学術学会

期日 平成23年3月5日(土)・3月6日(日)
会場 島根大学医学部看護学科棟
(島根県出雲市塩冶町89-1)
テーマ 「医学看護学教育に内省的実践モデルを取り入れよう!」

第21回日本医学看護学教育学会学術学会のご案内

会頭 塩飽邦憲(島根大学医学部環境予防医学)

第21回日本医学看護学教育学会学術学会をお世話させていただくことになりました。学会場は、島根大学医学部看護学科棟を使用します。JR山陰本線出雲市駅からも2km南にありますので、駅からバス、タクシーをご利用頂くか、天気がよければ歩いて15分程度です。

高齢化による疾病構造の変化、国民の医療ニーズの多様化・複雑化の中で、これらに対応できる医療人の育成が一層重要となってきています。より質の高い医療人を目指して、大学院等での高度専門職の育成が急速に充実してきました。

医師養成では、大学院にがんなどの専門医養成コースが、研究者養成とは別に設けられ、博士号とともに専門医資格が取得できるように多様化しつつあります。看護師養成では、従来からの専門看護師(CNS)、認定看護師以外に、昨年度に特別講演頂いた大分県立看護科学大学学長 草間朋子氏が中心となってナースプラクティショナー(NP)養成が始まっています。薬剤師養成でも、医療技術の高度化、医薬分業の進展等に伴う医薬品の安全使用といった社会的要請を背景として、平成18年度から教育年限が4年から6年に変更され、医療薬学をはじめとする専門教育や実務実習の充実が図られています。

一方、実質的な「大学全入時代」を迎えて、大学の教育水準の維持が課題になってきています。新設間もない大学や学部を対象にした2009(平成21)年度の文科省「設置計画履行状況等調査」では、最近急増している看護系学部において、教員の確保やカリキュラムの整備について問題点が指摘されています。このように、本格的な少子化時代の大学が、生き残りをかけて高度の資格を習得するための大学院等の充実に奔走していることが、高度医療人養成の裏面として浮かび上がります。

教育内容については、モデルコア・カリキュラムの設定やチュートリアル教育などの工夫が取り組まれてきました。これらの基礎には、Evidence-based Medical Educationがあり、各専門家がそれぞれの教育経験をもとに独自の教育を行っていた時代から、医学看護学教育に科学的根拠を求めることが一般的になってきた時代に対応しています。一方、救急医療等でのExperience-based Medical Education、精神医学等でのNarrative-based Medical Educationが提案されていますが、確たる理論や方法論の確立が遅れています。その後、答のない医療現場で、質の高い根拠を目の前の学生や研修医・指導医に適応することの難しさが議論されるようになってきました。医学教育の現場は臨床現場よりもさらに明確な答がないため、 科学としての「医学教育学」の理論を「医学教育」の現場に適応するというモデルの限界があります。

この限界性に対して、明確な答のない複雑でややこしい問題に対応する際の思考のプロセスとして内省(Reflective thinking Practices)が重要と考えられるようになってきました。専門職の概念として、「技術的合理性に基づく技術的熟達者」から「行為の中の省察に基づく内省的実践家」へのパラダイムシフトをSchön(1983)は提言しています。すなわち、内省的実践家(Reflective Practitioner)は、過去の自分の経験を見直してそこから学びを得たり、診療におけるあいまいで複雑な問題を構造化するために、省察をツールとして用い、患者が抱える複雑で複合的な問題に、状況との対話に基づく行為の中の省察によって対処します。

こうした観点から、会頭講演で「医学看護学教育に内省的実践モデルを取り入れよう!」との提案をさせて頂き、会員のご発表で発展させて頂き、徳永進先生に「野の花ホスピスだより―神さま、あなたの出番はまだです―」(仮題)でまとめの御講演をお願いしております。

出雲市で開かれる第21回日本医学看護学教育学会学術学会に、是非、大勢の会員のご参加を賜りますようお願い申し上げます。

特別講演

「野の花ホスピスだより―神さま、あなたの出番はまだです―」(仮題)

講師:徳永進先生(野の花診療所院長)

会頭講演

「医学看護学教育に内省的実践モデルを取り入れよう!」

講師:塩飽邦憲氏 (島根大学医学部環境予防医学教授)

日程

平成23年3月5日(土)

  • 16:00-18:00 評議員会、理事会合同会議
  • 18:30- 懇親会

平成23年3月6日(日)

  • 8:30 受付
  • 9:00-9:30 会頭講演
  • 9:40-12:30 一般演題発表
  • 12:30-13:00 総会
  • 14:00-15:30 特別講演
  • 15:30 閉会

各種締め切り

  • 演題申込み・抄録締切り  平成23年1月7日(金) 1月20日(木) ※延長しました
  • 参加申込み締切り  平成23年2月18日(金)

第21回日本医学看護学教育学会学術学会を終えて

  学術学会会頭 塩飽 邦憲   
(島根大学医学部環境予防医学)

 第21回日本医学看護学教育学会学術学会は、3月5-6日に島根大学医学部看護学科棟にて開催されました。一般会員58人、学生会員34人、非会員24人の参加で、公開講座には会員に加えて120人の市民や専門家が参加されました。大きなトラブルもなく、盛況に終わりましたことに感謝申し上げます。

 今回は、会頭講演として「医学看護学教育に内省的実践モデルを取り入れよう!」を話させて頂きました。医学看護学教育の質的な発展に多大な寄与をしているEvidence-based Medical Educationを、答のない医療現場で質の高い根拠を学生や研修生に教えることはきわめて一面的であり、コミュニケーションの中で医療や看護を患者や住民に適応させることの必要性を痛感しています。私どもが実践してきた家庭健康管理実習を例に、明確な答のない複雑でややこしい問題に対応する際の思考のプロセスとして内省(Reflective thinking Practices)、「行為の中の省察に基づく内省的実践家(Reflective Practitioner)」へのパラダイムシフトの重要性を提起させて頂きました。過去の自分の経験を見直して学び、診療におけるあいまいで複雑な問題を構造化するために、省察をツールとして用い、患者が抱える複雑で複合的な問題に、状況との対話に基づく行為として対処しようとしています。若い世代の医学看護学の教育者がこうした課題にチャレンジして頂くことを祈念しております。

また、徳永進先生(鳥取市・野の花診療所所長)には、緩和ケアの現場で生じている複雑で解決策が必ずしも一つでない具体的な課題について「こんなときどうする?」と題して特別講演・公開講座をして頂きました。徳永先生は、鳥取赤十字病院の内科医として長年勤務をした後、2001年12月に鳥取市内にホスピスケアのある19床の有床診療所「野の花診療所」を始められました。診療所の方針は、「人の悩みから出発する」「患者さんの希望と選択を支える」「昼の雲、夜の星を大切にする」の3つを掲げ、いい最期を見届けていく医療を展開しておられますので、会頭講演と合致した具体的な話を頂きました。改めて、現場でのコミュニケーションから柔軟にケアを展開する重要性を認識しました。

会員による発表は、関東から四国まで広範囲で、口演36、ポスター7でした。内容も卒前・卒後教育から臨床・地域の医学や看護に関する演題まで幅広く、大変勉強になりました。いずれの発表も、内容・プレゼンテーション技術とも優れたもので、ぜひ 日本医学看護学教育学会誌に投稿頂きたいと考えております。

最後になりましたが、本大会にご参加頂いた会員、座長として円滑な大会運営に努めて頂いた先生方、運営をお手伝い頂いた島根大学医学部環境予防医学のスタッフに深く感謝申し上げます。

次回の第22回日本医学看護学教育学会学術学会は、2012年3月24-25日に米子市の鳥取大学医学部で開催されます。是非、来年も大勢の会員のご参加を賜りますようにお願い申し上げます。