原著 | 精神科身体合併症の発見の端緒に関する研究 | 石橋照子ほか |
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原著 | 批判的思考育成のための概念地図を用いた教育技法の開発 | 塩飽邦憲ほか |
報告 | 臨地実習における看護学生の学習の達成感 −人的環境の視点からの一考察− |
中島美和子ほか |
報告 | 在宅看護実習における学生の学習ニーズに対応した教育方法の検討 | 井山ゆりほか |
報告 | 問題解決型実習を志向した介護福祉士卒前教育における在宅介護実習の評価 | 伊藤智子ほか |
報告 | 高齢者の老いの自己受容に関する文献概観 | 坂村八恵ほか |
報告 | 野球部員における運動の血管運動反射に及ぼす影響 | 池宮由希子ほか |
報告 | 病棟における電子自動血圧計(オムロンHEM907)の効果的な利用に向けての意識調査 | 井上潤ほか |
報告 | クリニカル・パスを活用した看護実習への試み | 池田敬子ほか |
報告 | 水泳教室に参加する成人女性の自己効力感 | 中納美智保ほか |
入院中の精神障害者が身体合併症を併発した場合、現状では当該精神病院内では十分に対応できず、他科領域での身体合併症加療の目的で、転院を余儀なくされることが多い。しかも、身体合併症はその病傷が進展してから進んで発見されることが多いという実感があった。そこで、全国自治体病院の単科精神病院46施設のうち、調査協力が得られた26施設を対象に、過去1年間に身体合併症の併発により、他科領域の加療目的で転院となった事例について、発見の端緒に関する調査研究を行った。その結果、精神科身体合併症発見の端緒は、看護師の観察によるものが最も多く、次いで医師の診察によるものとなっていた。一方、患者本人の訴えによるものは少なく、全体の11.7%にとどまっていた。また、看護師の観察により発見された事例について、何によって気づいたかを検討したところ、患者の顕著な身体的状態の変化によって気づかれた事例が非常に多かった。これらのことから、精神科身体合併症の早期発見が困難な現状が明らかとなり、早期に発見していくためには、看護師の気づく能力の育成が重要であると思われた。
概念地図法は、社会的要因が複雑に関連する健康現象の解明、医師や看護師の熟達性教育に活用されている。このため、医学看護学教育で重視されている批判的思考能力の教育技法確立のために構造学習理論に基づく概念地図法を導入した。教師が概念地図法について解説した後、看護学生は褥瘡、栄養士は保育所における食育をテーマに概念地図を描いた。批判的思考能力の焦点、要因、推論、状況、明確さ、概観または全体像の6つの構成要素について学習者の描いた概念図を検討した。概念地図法により、焦点を第一階層の概念で、要因と推論を概念と概念リンクからなる知識領域で、状況と明確さを知識領域の関連性、概観または全体像を概念図全体のわかりやすさで解析を行った。概念地図の概念的枠組みに個人差や職種差があること、概念地図法の活用による概念的枠組みの明確化が批判的思考能力の強化に役立つことが示唆された。学習者の描いた概念地図を多様な観点から相互批判し、批判点を取り込んだ概念地図を描く過程を繰り返すことで体系的な概念地図を完成することができた。概念地図法により学習者の概念的枠組みを明確にすることによって批判的思考能力を強化する可能性が示された。
臨地実習において学生が感じる学習の達成感は、学生の学習意欲を刺激し、学習活動を促し、学習成果を獲得するために重要である。そこで、達成感を感じられる場面を体験できるような指導を行いたいと考え、大きく影響すると考えられている人的環境にしぼり、達成感についてのアンケート調査を実施した。対象は3 年生39名で、実習中に感じた達成感の内容とその後の学習意欲や行動の変化について、自由記述での回答を求めた。また、達成感に影響を及ぼした人を記入してもらった。回収率は96.2%で全て有効回答であった。達成感を感じた場面として回答のあった内容を、7つのカテゴリーに分類し、達成感に影響を及ぼした人およびカテゴリー別に分析した。また、達成感を感じた後の変化についてもカテゴリー化し分析した。今回の調査結果から、「看護師としての能力に対する自信」、「他者からの支持的・受容的態度」に対し達成感を感じていることが分かった。また、受け持ち患者・家族、臨床指導者が大きな影響を及ぼしていた。達成感を得た後の変化では、1人を除いたほとんどの学生に肯定的に作用しており、意欲の向上や前向き・積極的姿勢への変化をもたらしていた。また、新たな気付きや考え方ができるようになったなど、自己の成長を自覚したという内容も多くあった。これらのことから、指導側、特に教員の役割について考察し、今後の指導方法について検討した。
島根県立看護短期大学の在宅看護実習では、2000年度より学生の主体的な実習態度を育成するために、実習前に実習課題を明確にさせている。在宅看護実習は3年次5〜12月の期間にローテーション方式で行うため、5〜6月の実習グループ(前半)に比較して9〜12月のグループ(後半)は、病院などの実習を経験している。そこで、2000-2001年度に在宅看護実習を行った学生141名の記載した実習課題から、在宅看護実習における時期別の学習ニーズを明らかにし、それに対応した教育方法を検討した。前半は、チームアプローチ、継続看護、看護者の態度、後半は保健医療福祉システム、社会資源とその適用、行政の役割と責任に関する学習ニーズが多かった。このため、在宅看護実習の前半では、1)事例からのアセスメントや援助方法を通して、保健医療福祉システムや社会資源に関心を持たせること、2)継続看護については、病院での退院時カンファレンスへの参加の機会を設けること、3)行政の役割と責任について学ぶ機会を設けること、後半では、1)保健医療福祉システムや社会資源とその適用、行政の役割と責任に教育目標を絞ること、2)チームアプローチや看護者の態度については、在宅看護でしか学べない多職種との連携や看護者の役割、態度についての行動目標を明確にすること、3)継続看護については、病院実習などで学んだ事例から地域資源の活用を学ぶことが有効と考えられた。
在宅介護サービスを提供する専門家には、より個別性を重視した問題解決能力が求めている。しかし、施設実習に比較して在宅介護の実習目標、実習方略、実習体制は未確立であるため、在宅介護実習の教育評価を行い、問題解決型の実習方略について検討した。学生の実習記録において、全学生のうち利用者生活ニーズの記載は7割、介護福祉士に必要とされる能力の記載は3割に留まり、在宅生活を支えるケア資源の役割の記載はなかった。在宅介護実習を施設介護実習と比較し、利用者本位の介護について考察した学生が5割みられた。これらの要因として、実習施設での教育環境の格差、業務経験型の実習過程、学生による実習目標の低い認知、実習指導者や専任教員とのディスカッション不足などが考えられた。課題として在宅介護実習を問題解決型学習方式での再編成、学生の実習目標の認知強化、わかりやすい実習体系図の開発、実習指導者・教員によるサポート強化、実習評価会の充実による実習指導者や専任教員との対話が重要と考えられた。また、実習終了後も問題解決型学習を継続するための教育資源の開発も課題である。
高齢者の老いの自覚や老いの受容に関する理解を深めることは、老年看護の質を高める上で重要である。高齢者の老いの自己受容に関して、看護の視点から高齢者への関わり方の支援方法を考えていくために、文献により高齢者自身の老いの受容について、高齢者の内的体験を主軸とした先行研究を概観した。老いの自覚と受容に関する先行研究を概観した結果、看護学以外の医療専門職や社会学の分野において研究が蓄積されていた。そして、それらの研究は統計的手法を用いた量的研究で導き出されているものが多く、前期高齢者を対象とした研究が多いことが明らかになった。老年看護学における高齢者理解を促進するために、高齢者個人の習慣、人的環境、生活の文脈、信念そして価値観を全体的にとらえ、ライフサイクルの最終段階における高齢者の老いの自覚、受容のプロセスを質的に分析することが課題と考えられた。
青少年期における適切な運動のあり方を検討するために高等学校の1年から3年に在籍し、野球部のトレーニングを通じて比較的激しい身体活動を毎日続ける野球部員とクラブ活動をしていない一般高校生について、健康調査結果と運動量を比較検討し、起立時における血管運動反射の反応性の差を明らかにした。1日の総消費エネルギー量は、一般高校生に対して野球部員では大きく、身体活動にともなう消費エネルギー量も一般高校生に比べ野球部員は多かった。臥位から立位にした際の血圧の経時変化を見ると、一般高校生も野球部員も共に血圧低下が見られたが、その後、野球部員では血圧の回復は迅速であった。また、起立前・起立後の血圧変化は野球部員の方が大きかった。野球部員では一般高校生に比べ起立後の血圧回復時間が短く、また回復後の血圧上昇がみられたことから、毎日のトレーニングによって、血管運動反射が迅速に反応したと考えられる。起立性調節障害が見られた対象者に対しては、適度な継続した運動の継続指導が重要と考えられた。
電子自動血圧計は、測定の簡便さから家庭や外来などで普及しているが、適切に使用しないとエラーや誤差の原因となる。そこで、病棟での電子自動血圧計の使用について看護師はどのように考えているのか、またその考えは使用するにつれて変化するのか、利点欠点の視点から質問紙調査を行った。対象は、電子自動血圧計(オムロンHEM907、以下HEM907とする)を使用する前の病棟看護師162名とし、1年後そのうちの50名に対して同様の調査を行った。その結果、看護師はHEM907の操作は容易で軽いといった利点と、測定時にスペースが必要であり、不整脈などでエラーが出やすいという欠点を挙げていた。HEM907を使用し始めて1年後の調査では、利点を挙げた看護師がさらに増加し、直接看護の少ない看護師よりも多い看護師の方が日常的に使用していた。また使用前後共に約20〜30%の看護師が水銀血圧計に比べ誤差がある、測定に時間がかかると考えていた。以上のことから、最初の看護師の意識は使用するにつれて変化していることが明らかとなったが、エラーや誤差に対する知識をもち適切な対処が行われているか、水銀血圧計を含め基本的な測定方法が守られているかといった問題点も考えられた。病棟での電子自動血圧計の使用は簡便であるという利点があるが、それらをより効果的に利用するためには、あらかじめ使用する血圧計の特性などの知識を提供する必要がある。
新人教育にも有効とされ導入されつつあるクリニカル・パスを看護学生の周手術期看護の実習指導に導入し、その効果を検討した。学生に臨床で活用しているクリニカル・パスの実例を提示し、看護アセスメント欄を追加した受け持ち患者のクリニカル・パスを順次作成させクリニカル・パスの完成度、実習記録、学習効果、問題点の指摘について分析した。クリニカル・パスは展開の早い疾患の看護実習にも有効に活用できるという結論を得た。
運動を習慣的に行うことは、多くの生活習慣病の予防や健康的な生活のために重要である。しかし、新たな運動に取り組み、継続することは容易なことではない。そこで、新しい行動の獲得や行動変容を説明する理論である自己効力感(Self-Efficacy)に注目し、新たな運動への取り組みや継続の支援を行うために、水泳教室に参加する成人女性の自己効力感を調査した。対象は、水泳教室に参加している成人女性20名(年齢47.5±8.9歳)であり、水泳教室への入会期間が6ヵ月未満(新規群)11名と6ヵ月以上(継続群)9名の2群とした。調査内容は、一般性セルフ・エフィカシー、水泳教室に入会したきっかけ、水泳に期待すること、年齢、性別、家族構成、職業の有無、通院・治療の有無および身長、体重、血圧、体脂肪率とした。一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale:以下GSES)得点を新規群と継続群で比較するとGSESの3つの下位因子において、継続群は「行動の積極性」の因子で新規群より有意に得点が高く(P<0.05)、自己効力感が新規群より高い傾向にあった。このことから、新たな運動への取り組みや継続に自己効力感が影響していることが示唆された。