寿生病院は1992年、基準看護特Ⅱ類の一般病院から介護力強化病院に体制を変更した。
開院時より看護助手として数名の職員が配置され、看護の補助的業務を担当していた。体制の変更にともない人数を増し、介護職員と改名して介護業務と廃棄物処理などの機能別業務を担当している。患者132人を現在、看護婦25人、介護職員44人でケアしており、看護婦と共に介護職員の資質向上は必須となっている。介護職員の年齢層は19歳から54歳で、介護未経験者が多いため、新規採用時オリエンテーション、継続教育により教育を行ってきた。これまでの教育システムによって、一般的ケア技術の修得は可能であったが、自らが問題意識をもって個別ケアを行う姿勢に欠けている点が問題であった。1994年10月より高齢者ケアプラン策定を全職員で取り組むことにより、患者の潜在的な問題の把握、分析能力の向上などに大幅な意識の改善がみられていることが意識調査によって確認された。介護職員教育において従来の教育体制の充実と共にケアプラン策定を充実させることが有効であると思われる。
介護職員教育 介護力強化病院 高齢者ケアプラン
患者のQuality of Life(以下QOL)の充実が、看護る者の「まなざし」によるところが大きいという前提から、ナースの内観的記述をデータとし、①ナースの「まなざし」がどこを見ているか、②どのような感情で見ているか、の視点で事例の分析を行った。
対象としたナースは、入院患者に対して病院内で看護を行っている。日々患者と関わる中で、ナースの目に映った対象および周囲の状況を、内観的記述で報告してもらうよう依頼した。今回の事例は、癌により入院され、約3ヶ月間で亡くなられた患者と、一人の看護婦の関わりである。
この事例の分析検討から、看護る者の「まなざし」が、言語に集中していく傾向にあること、看護る者の主観的情報を大切にしていくことが必要であること、患者の病状悪化に伴い、看護る者の「まなざし」が、病気や不安に集中する傾向にあることが明らかになった。患者のQOLを維持・充実させていくためには、看護る者の「まなざし」が、患者の今の「生活」に向けられていく必要がある。
内観的記述 まなざし QOL 看護る者―患者関係 主観的情報
告知に関する調査研究や、告知後のケアのあり方についての研究は多く行われているが、援助者の内面的問題に関する研究はあまりない。今回、看護婦の内省報告を元に、関わりやすいと感じた要因、関わりが難しいと感じた要因を明らかにし、ケアの充実を図ることを目的に本研究を行った。その結果、①看護婦として症状のアセスメントに意識が傾くとき、患者の気持ちに共感することが難しくなる。②看護婦の告知や患者に対する「構え」が、患者との関係に影響を及ぼす、③告知の目的を遂行しようと、援助する側の気持ちが患者より先行しやすいことが明らかになった。以上の結果から、援助する側の内省報告から、内面的問題を検討していく意義が明らかになった。
告知後の関わり方 援助者の内面的問題 構え 告知の目的 共感
人々の「死」についての論議がマスコミを賑わし、終末期医療のあり方が問われるようになってきている。しかし、死という転帰を迎えた場合、患者や家族から私達の医療に対する評価を聞く機会も少なく、自己評価に終わることが多い。島根県における終末期医療に関するデータも数少ない。そこで、がん患者を実際に看取った家族の捉えた一般病院での終末期医療の現状を明らかにし、よりよい終末期医療を考える基礎資料とするために調査を行った。その結果、がん患者を看取った家族の41%が感謝の念を持ち、「医療の質」と「医師・看護婦としての姿勢」の要望を抱いていること、病名告知に対する家族の迷いと苦悩、患者死後の家族の悲嘆があることがわかった。現行の医療に対する信頼とともに正当な批判とそして期待があることが伺える。
終末期医療 がん患者 家族医療の質 医師・看護婦としての姿勢
近年、医学・医療の進歩はめざましく、悪性腫瘍に対しては、化学療法、鎮痛対策等により治療効果をあげている反面、身体的、精神的苦痛に耐えながらターミナル期を過ごさなければならないという事実もある。キューブラー・ロスは死にゆく患者の心理プロセスについて否認、怒り、取引き、抑うつ、受容が段階的におこることを述べているが、中でも筆者は、患者が怒りを表出する場面によく遭遇した。今回、彼らの怒りがどのようにして表出に至るのかを明らかにしたいと考え、表出時期、原因、対象、表し方の、4つのカテゴリー別に傾向を分析、検証した。その結果、怒りの表出について、これらの4つが密接に関連しあっており、様々な原因から怒りを感じ、あらゆるところへぶつけられることがわかった。このようにターミナル期は怒りを表出しやすい時期であり、看護婦としてはそれらを理解しておいた上で、寛容な態度で接することが必要である。
怒り ターミナル期 告知 受容
近年、透析医療の進歩により腎不全患者の長期生存が可能となったが、その合併症、特に腎性骨異栄養症が増加している。腎透析に伴う合併症を予防し、患者のQOL向上を図るため、慢性維持透析患者43名とその家族を対象に、食生活を中心とした生活指導体制の強化のために、医師・看護婦・栄養士による教育を行った。自宅でのリン摂取量および血中リン値により教育評価を行った。今回の教育によってリン摂取制限群(リン摂取800mg/日未満)が、集合教育前の39.4%に比較して、集合教育後69.7%と向上した。透析施行中のベッドサイドでの生活指導は、プライバシー保護や集中力の点で問題があり、患者の都合にあわせた教育プログラムを設定することにより、教育効果は向上した。慢性維持透析患者は高齢化しており、合併症の大きなリスク因子となってきている。高齢社会での、透析に伴う合併症の防止の必要性は高まっており、指導体制の強化のために看護婦と医師・臨床工学技士・栄養士との業務連携を有機的に組織化することが重要な課題になっている。
慢性維持透析 腎性骨異栄養症 合併症 リン摂取量 生活指導
近年、人口の高齢化、家族形態の変化に伴い高齢障害者の自宅への退院が困難なケースが増加している。在宅で利用できるサービスは乏しく、障害の重症化、家族の介護力・経済力・人間関係の破綻などにより介護問題は、深刻な社会問題化となっている。益田地域医療センター医師会病院においても入院期間の長期化や社会的入院が問題となってきた。そこで、平成7年4月に在宅介護支援センターが併設し、訪問看護ステーションを検討するなど在宅介護に取り組んでいる。その結果、介護を要する患者の自宅退院が増加している。今回、Quality Control活動の一環として「介護を要する患者の自宅への退院に向けて、家族の不安に対応した病棟での退院指導」をテーマとして取り上げた。従来の退院時指導を評価し、新しい退院指導マニュアルを作成した。新たに開発された退院時指導マニュアルに、看護婦、医師、薬剤師・栄養士・理学療法士などによる入院時の在宅介護指導プラン確立と実施、病棟看護婦、メディカル・ソーシャルワーカー、在宅介護支援センター、訪問看護婦、会員医師等との情報ネットワークの総合化を試みた。そして、新しい退院指導マニュアルを5人に適用し、その効果を検討するとともに、入院早期からの家族と関わることの重要性や退院に向けての福祉サービス機関との連携を再認識し、病棟看護婦の役割を考察した。
高齢障害者 在宅介護 訪問看護 在宅介護スコア 在宅介護支援センター
日本の人口高齢化は急激に進行するとともに、産業構造の変化、核家族化、女性の社会進出などにより、家族や地域のケア機能の低下がみられる。このため、高齢者が安心して暮らし続けることを支える在宅ケアシステムについて検討した。出雲市で最も高齢化の進む稗原地区で、地元の開業医を中心とした在宅ケアシステムの構築過程を検討するとともに世帯類型別のケアニーズを面接調査で明らかにした。その結果、高齢者単独世帯および高齢者世帯では、生活関連の交通・産業ニーズが重要であり、拡大世帯では健康や家屋改造のニーズに重きが置かれていた。このニーズを満たし、高齢者がより安心して暮らすために、健康専門家によるケアマネージメント・システムに加えて、住民参加の相互サポートシステムを強化することが必要と考えられた。
地域特性 ケアマネージメント・システム ケアニーズ 住民参加
精神障害者の脱病院、脱施設のためには、就労や経済的自立の社会復帰対策が重要であると同時に、地域で生活する障害者のニーズに沿った多様できめ細かな地域支援システムが求められている。今回、精神障害者及びその家族が地域で安心して当たり前の生活を送るために重要である。「小規模作業所」「家族会」「デイケア」「通所授産施設」「援護寮」「精神科診療所」についての現状と課題を明らかにする目的で、出雲保健所管内を対象に面接聞き取り調査を実施した。
家族会には病院家族会と地域家族会があり、地域家族会では定例化と会の内容の充実がみられるが、親の高齢化や病気への正しい理解や地域としての課題である共同作業所の建設という問題点と課題があげられた。デイケアは病院と保健所で行われており、精神障害者の交流に重要な役割を果たしているが、障害者主体の取り組みへと発展させることが課題である。精神障害者が気軽に相談や治療を受ける上で精神科診療所が開業されたことの意義は大きい。診療所機能の充実と地域での生活の場における在宅ケアの体制づくりが課題である。また、精神障害者の就労や経済的・生活面での自立という点で、小規模共同作業所、通所授産施設や援護寮の果たしている役割は大きい。
出雲保健所管内において精神障害者の社会復帰のための社会的資源は充実されてきている。しかし、社会参加の実現、つまり精神障害者及び家族が主体となって、「全家族が偏見のない社会で、健全な生活を送る」ためには、社会的資源のネットワークの要である出雲地域精神保健協議会を構成する40の関係機関の緊密な連携の構築が重要である。
精神障害者 社会復帰 社会参加 ネットワーク
常時1人以上の従業員を抱える町内57箇所の事業所の内、従業員20人以下の零細事業所が90%を占める佐田町では、コミュニティを基盤とした地域共同産業保健システムを導入し、ヘルスプロモーションの実践を行っている。この実践活動では「人づくり」に重点を置き、事業主の主体的運営体制を確立し、加えて労働者参加を促進するという目的で、町内全事業所に衛生担当者を選任した。
この衛生担当者の主体的な参加を促す目的で、1995年11月、第1回佐田町産業保健会衛生推進員技能講習会を開催し、安全衛生面の知識、職場巡視や救急蘇生の技術、ライフスタイル重視の視点、そして衛生推進員の主体性を重視した役割の明確化に主眼をおいた教育を実施した。教育方法として、労働基準監督官、医師会認定産業医、救急救命士の講義とグループ討議、技術修得訓練を実施し、最後に修了証を交付した。特に、グループによる救急蘇生の技術修得は、相互に工夫点を指摘し合い、技術修得の効果も大きかったが、衛生推進員の責任の意識づけとしても有効であった。また、労働者参加型の産業保健活動における産業医、事業主、行政、そして労働者の役割を明らかにし、衛生推進員の主体的なかかわりを保障する体制が、町内に整いつつある現状の説明から学習を進め、レディネス(準備状態)を重視したこと、さらに修了証を交付したことは、参加者の主体性確立に役立った。教育目的を明確化し、レディネスを重視することが、グループダイナミクスを効果的にし、労働者の産業保健活動への主体的参加を促進する上で重要であった。
産業保健 ヘルスプロモーション コミュニティ 労働者参加型学習 グループダイナミクス
国立浜田病院附属看護学校における手術室実習での教育目標は、自分と手術室の現象について意味を見出すことである。とくに手術患者の体験に関心をむけ、共感することである。手術室実習において、患者への関心を深め、患者中心の看護の考え方を主体的学習により修得することを目標としている。このために、チュータ制小グループ学習により、看護過程における教育目標を学生が主体的に考え、学生自身に実習計画をたてさせている。カンファレンスおよび反省会記録からプロセス毎に教育評価を行い、主体的学習方法による実習展開によって、学生が患者への関心を深め、看護の推論、判断力を養い、自己学習力を育成していた。
手術室実習 看護過程 主体学習 教育評価
島根県の看護学生の看護婦イメージに関する調査を行った。看護学生の行動特性を知る目的で、看護学生と一般大学生の看護婦イメージの差を調査し、そして看護学生の中でも短大生と専門学校生の看護婦イメージにはどのような違いがあるのか比較し、検討した。看護婦イメージは、SD法により看護に関する27項目の形容詞対を7段階評価で数量化して測定した。同時に看護婦イメージに影響を与える背景として看護学生に対し入学動機など看護職志望についてのアンケート調査をした。その結果、看護学生は一般学生より看護を「やりがいのある」「好きな」「魅力的」な職業と考え、看護婦を「重要」で「価値ある」存在とみなしているものが有意に高い集まりである事が分かった。また、短大生と専門学校生間の比較では全体的に短大生の方が、ポジティブな看護婦イメージを抱いているという結果であった。しかし、入学してまだ半年あまりのこの時期には働きがいや、専門性の因子に関わる看護婦イメージの差は殆ど無いことがわかった。
看護婦イメージ SD法 看護婦志向性
男性の看護職者は、看護士や保健士が法的に認められ少しずつ増加しているが、就業看護者全体から見るといまだ3%弱に留まっている。そのような状況の中で、看護職の教育現場や臨床現場において、男性の看護学生や看護職者が十分に能力を発揮できる状況であるか、改善すべき点はないかを明らかにしたいと考えた。その第1段階として、平成7年度に開学した当短期大学に在学中の5名の男子看護学生に対して、看護職志望動機や将来像、看護職志望時の周囲の人々の反応等について聞き取りをした。その結果、男子看護学生は看護職について「女性の仕事」とか「医療施設の中の仕事」といった既成の枠組みにとらわれない比較的柔軟な受け止め方をしており、かつ将来自分が就く職業として現実的に捉えていることが明らかになった。
男子看護学生 看護職志望動機 看護士 保健士
島根県立看護短期大学では、平成7年4月にコンピュータのネットワークシステムを導入し情報教育を開始した。入学当初82%の学生がコンピュータについて未経験であった。その学生達が情報科学・情報処理の授業を楽しく感じ、積極的にパソコンの使用法に取り組み、習熟できた理由は「習うより慣れろ」といった教育方針と、多くの「成功体験」できる課題を与えた点にあった。またその中で現に到来している情報化社会の一員として、積極的にネットワークの利用をしようとする態度が出てきた点は大きな評価として考えられる。今後、看護情報学を修得した看護職が増えていくことが望まれ、本研究で試みた研究方法は、効果的であると思われる。
情報教育 学内LAN インターネット 看護情報学
島根県M高校が直面する健康問題を評価するために、自覚的健康度、学校満足度、健康な生活習慣から構成された調査を生徒、校区内小中学校、大都市高校と連携して実施した。M高校生は、自覚的健康度と健康習慣については大都市部の高校生に比べ良好であったが、精神・社会的な健康に課題が認められた。この調査結果を基に、①生徒の健康ニーズ評価、②地域社会との連携、③学校保健サービスの確立、④健康教育の確立、⑤学校環境の改善をフレームワークとした新しい学校保健モデルを開発した。それぞれのフレームワークについて生徒の自己学習能力の促進、学校医や地域と連携した精神・社会的健康ニーズに対応した学校保健サービス強化について、ヘルスプロモーションの観点から分析を行い、強化戦略を確立した。
高等学校 ヘルスプロモーション 学校保健 健康教育 学校保健モデル
島根県立中央病院は、島根県立総合看護学院看護学科の臨床実習病院である。病院の臨床実験指導者と学院の専任教員(以下、指導者とする)が、連携を深め教育の質の向上をはかる目的で定期的に臨床実習指導者研究会を開催している。平成7年度は、指導者の半数が新しくなり実習指導に不安の声が聞かれた。そこで、1)自分の指導傾向を理解することができるのではないか、2)学生の理解が深まるのではないか、3)実習指導者としての今後の関わり方の気づきが得られるのではないかと考え、臨床実習指導者研究会に学生指導の事例検討を取り入れた。事例検討後の記録用紙とアンケートより事例検討の効果を判定した。その結果、自分の指導傾向の理解、学生の理解が深まり、今後の実習指導の関わり方の気づきが得られ効果的であった。
事例検討 指導者 臨床実習指導者研究会 自分の指導傾向 学生の理解 今後の関わり方
臨床実習指導者研究会は、平成7年度、人間関係技術の能力を高めることを目的とした宿泊カウンセリング研修を実施した。この研修の体験が、指導者の内面的プロセスにどのような変化をもたらすのかを客観的に捉えるためにセマンティック・ディフェレンシャル法(SD法)を用い研修前と研修後の調査を行った。その結果、①研修前と研修後の得点の平均値の差を検定した結果では、「他人思いの」「新しい」「あたたかい」「平等な」「意欲的な」の5項目が有意に変化した。②研修前と研修後の因子分析の結果では、「私は」という概念に対する因子としては、研修前において4因子が、研修後において2因子が抽出された。③研修という外界からの刺激を受けて、学習者は自己に対する認識の枠組みが明確化され、自己概念の統合が促された。以上のことから、今回の宿泊カウンセリング研修の体験は、学生指導を担当する臨床実習指導者の自己認知―自己理解、他者認知―他者理解という人間関係技術の能力を高めるのに有効であったと言える。
臨床実習指導者研究会 カウンセリング研修 SD法 内的プロセス 人間関係技術能力
看護ケアの質の評価に関してモニター上にてタッチパネル方式で評価できる方法を導入して入院患者を対象に検討した。対象は当院で1月以上の入院歴があり、痴呆を認めない患者10名(平均年齢75.6歳、男性4名、女性6名)で、退院時に評価してもらった。看護ケアの質の評価はCaring Satisfactionの改訂版を用いた。また、評価方法には14インチモニター上にてタッチパネル方式を用い満足度を評価した。「看護婦は治療について、重要なことを説明してくれた」「看護婦は頼みたいことを尋ねる前に知っていた」「看護婦は治療について家族に説明してくれた」「看護婦に病気とその治療についての話をしようと思った」などの点において患者の評価が低かった。逆に「看護婦は信頼できる」「看護婦はコップ、茶、紙などすぐに持ってきてくれた」「看護婦は電気が暗すぎる、うるさすぎるなどの点においてきちんと対処してくれた」など入院生活の基本となる対処の質問に関しては得点が良かった。看護の質を構成するいくつかの要素の中で看護婦の「説明と指導」などの面において評価が低く、この点において患者との良好な関係を築く上で、今後検討していく必要があると思われる。
看護の質 Caring Satisfaction タッチパネル 患者教育