原著 | 看護学生と看護師の感情労働のスキル獲得プロセスの検討 | 重本津多子ほか |
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原著 | 外来血液透析患者の自己効力感に関連する因子の探索 ~時期的変化の特徴を踏まえて~ |
土佐淳一ほか |
原著 | 介護予防における高齢者の運動教室の身体的・心理的効果と運動継続への課題 | 内山薫ほか |
原著 | 看護系大学に所属する若手教員が必要とする支援の検討 | 土肥美子ほか |
原著 | 中堅看護職者のキャリア成熟に関する研究 ―看護師長によるサポートとキャリア成熟との関連― |
狩野京子 |
報告 | 直腸がんの手術を受けて退院し、外来通院している壮年期患者の復職体験 | 岡田陽介 |
報告 | 看護学生のロールモデルの実証的調査 ―臨地実習の経験が看護系大学生の学習目標の内容と達成のための自己調整に及ぼす影響― |
鍋田智広ほか |
報告 | 液体石鹸を用いた泡の洗浄と拭き取りによる皮膚表面の違い ―皮膚表面pH・経皮水分蒸発量・角層水分量・角層膜厚を指標として― | 梶谷麻由子ほか |
報告 | 在宅終末期ケアに携わる訪問看護師の看護倫理観 | 平山惠美子ほか |
報告 | 妊婦の腹圧性尿失禁を予防するための保存的療法の評価 ―骨盤底筋訓練と歩数調査― |
長島玲子ほか |
その他 | 乳がん患者に関する1983年から2013年までの国内文献の検討 ―若年性乳がん患者の看護を中心に― |
新居富士美ほか |
援助を業とする看護師にとって援助対象者を理解することは重要である。また他者を理解し、看護の提供を行うためには自分自身の感情を適切にコントロールする感情労働は必要となる。そこで、看護師601人と看護学生105人を対象に「看護師の感情労働尺度Emotional Labour Inventory for Nurses(ELIN)」を利用した感情労働スキルの獲得プロセスについて検討することを目的として本研究を実施した。
ELINの因子分析では、〈共感的理解〉〈感情演技〉〈感情抑制〉の3因子構造となった。看護師の経験年数によるELINの各因子の関係について検討したところ、〈感情抑制〉については、経験年数5年を境として差がみられた。そして、キャリア・アンカー形成のプロセス途上にある看護師経験5年未満の看護師と看護学生の感情労働に関する認識を比較した結果では、すべての因子で違いがあった。このことから、大学での学習を基に、労働の提供者として看護の実践を行い、日々の経験を積む過程で感情労働について変化していくプロセスがあるものと推察できた。
また、看護学生にとって自分自身の感情を適切にコントロールできる感情労働スキルを獲得する過程には専門的な知識と様々な経験によって他者の感情を体感し、自分の感情を使って表出する感情規則を学ぶことが重要となることが示唆された。
感情労働、スキル、看護師、看護学生
emotional labour, skill, nurse, nursing student
外来血液透析患者は日常生活上様々な制限や管理が必要であり、治療に伴うストレスが患者に大きな負荷となる。透析患者の精神症状、心理的態度の時期的変化の特徴は「透析患者のたどる心と体のプロセス」とし7相に分類されおり、特に中間期(4~12ヶ月)・社会適応期(1~3年)・再調整期(3~15年)・長期透析期(15年以降)は、在宅療養生活が主となり自己管理が重要となる。自己管理に自己効力感が影響している事は既に明らかであるが、自己管理を維持するためには時期に応じた自己効力感を高める介入が重要である。当該プロセスにおいて中間期以降の各時期で自己効力感に関連する因子を明らかにする事を目的とし、対象患者に無記名による自記式質問紙法を実施した。調査内容は、患者属性や血液透析患者の自己効力感、透析管理行動の主体性、透析生活充実感、家族のセルフケア支援、医療者のセルフケア支援、特性不安により構成した。各時期の自己効力感を目的変数に、他の5尺度を説明変数とし重回帰分析を実施した。その結果、4時期とも自己効力感に透析管理行動の主体性が関連していた。さらに、中間期では家族のセルフケア支援、社会適応期では透析生活充実感、再調整期では透析生活充実感・特性不安、長期透析期では特性不安が関連していた。時期の違いにより自己効力感に関連している因子に相違があり、時期に合わせ支援を対応させる必要性が示唆された。
外来血液透析患者、自己効力感、透析患者のたどる心と体のプロセス、重回帰分析
Hemodialysis outpatients, Self-efficacy, Process of dialysis patient's soul and body, Multiple regression analysis
目的:介護予防のための運動教室を経験した高齢者の身体的・心理的効果を明らかにするとともに、運動教室終了後も運動習慣形成に繋げるための課題について検討する資料を得ることを目的とした。
方法:介護予防事業の一つである運動教室に参加した高齢者27名と、対照群として教室と同時期に行われた老人会の定例会等の出席者34名に対し、自記式質問紙調査と体力測定を行った。質問紙調査と体力測定は教室参加前、教室参加後、教室終了3か月後の3回行ない、対照群に対しても参加群と同様の調査時期に同内容について行った。
結果:日常生活動作のつらさでは、下肢機能に関するつらさ8項目のうち「あり」の個数が終了直後に減少し、終了3か月後にやや増加しても、参加前の値より少なかった。主観的意欲度は終了直後に変化はないが、終了3か月後には有意に増加した。主観的健康度[体]は終了直後で低下傾向を示すも、終了3か月後で参加前の値に戻っていた。体力測定では、30秒スクワットは終了直後で増加し、終了3か月後で有意に増加していた。最大5歩幅は終了直後に増加し、終了3か月後には低下しても参加前より高かった。
結論:運動教室は身体的・心理的に効果をもたらし、介護予防に有効である可能性が示唆された。しかし、主観的意欲度や主観的健康度[体]は終了直後に低下することから、運動の継続に向けて教室終了直後からのサポートが重要であることが明らかになった。
高齢者、運動教室、運動継続、介護予防
Elderly, Group exercise, exercise adherence, Care prevention
本研究では、看護系大学に所属する若手教員が必要とする支援について明らかにすることを目的とした。若手教員144名の自由記述文を、質的帰納的に分析した結果、若手教員が必要とする支援として、14のサブカテゴリーから、【研究に関する支援】【教育活動に関する支援】【職務遂行に関する支援】【継続学習に関する支援】という4つのカテゴリーが抽出された。このことより、若手教員が看護系大学の教員として、研究および教育活動を行い、自らの職務を遂行でき、継続学習のための支援を必要としていることが明らかになった。これらの支援は、若手教員が望むFD(Faculty Development)活動への情報提供になり得るものと考える。
若手教員、支援、FD
Junior Faculty, Support, faculty development
本研究の目的は、中堅看護職者のキャリア成熟度と彼らが知覚する看護師長によるソーシャルサポートとの関連性を明らかにすること、また、中堅看護職者のキャリア成熟度に影響を及ぼすソーシャルサポートの下位概念を抽出することにある。
本研究の調査対象は、500床以上の病院に勤務する臨床経験年数5から10年の看護職者1253名とした。調査内容は、対象のデモグラフィクス(年齢、性別など9項目)、坂柳によるキャリア成熟度27項目およびHouseの概念を基盤に小牧等が作成したソーシャルサポート尺度16項目とした。分析は、概念間の関連および主要概念への影響について、統計パッケージSPSS Base17.0Jを用いて処理した。
本調査の結果、中堅看護職者のキャリア成熟度は、「関心性」「自律性」「計画性」の順に高く、看護師長によるソーシャルサポートは、「情緒的サポート」「情報的サポート」「評価的サポート」「直接的サポート」の順で高くいずれも、カテゴリー間に有意差を認めた。また、ソーシャルサポートについて因子分析を行った結果、本調査では、「情緒支援」「キャリア支援」の2因子を抽出した。中堅看護職者のキャリア成熟度と彼らが知覚する看護師長によるソーシャルサポートには正の相関が認められ、キャリア成熟度に対する影響の度合いは、キャリア支援に比較し、情緒支援が強かった。さらに、看護師長によるソーシャルサポートと配置転換の有無に有意な関連が認められた。
キャリア成熟、ソーシャルサポート、中堅看護職者、看護師長
career maturity, social supports, middle-level nurses, chief nurses
本研究は、直腸がんの手術を受けて退院した壮年期の患者が、職場復帰後にどのような不自由さを感じているかを明らかにし、復職への退院指導に役立てることを目的とした。患者選択は、病院に依頼し、外来医師から許可が得られた患者1名で、食生活、仕事の内容、職場環境、個人背景、外来治療について半構成的面接を行った。分析方法は、職場復帰に関連した生活実態を記述的にまとめた。その結果、対象者は50歳代後半の男性で、直腸がん切除術と人工肛門造設術を受けて職場復帰後6ケ月目を迎え、外来では化学療法13クール目を治療中であった。勤続25年目で母親との二人暮らしであった。復職後の不自由さは、①ストーマ管理に戸惑いがあったこと、②職場の人間関係では、勤続年数が長いことで、周囲に相談しにくい環境であったこと、③医療者には個人的な仕事の援助を求めていなかった、という実態が明らかになった。本研究を通して、壮年期はセルフケアが大きいことから、入院中から復職後のイメージ作りに必要な情報提供が重要と考える。医療的アドバイスを行うにしても、患者の体力、職場環境、復職への期待度を把握する必要があり、患者が望む復職支援の有り方を確認してから、明確な意識を持って看護することが望ましいと考える。
復職、直腸がん、壮年期、外来患者
returning to work, rectal cancer, late middle-aged, Outpatients
看護実践をしながら成長していくためには、目指すべきロールモデルを形成しそこに近づき学ぶための努力や労力を適切に自己調整することが大切であるが、こうした学びの自己調整は看護実践をしながら身につけると考えられる。本研究は、看護系大学の学生が臨地実習を経てどのように学びの自己調整を身につけるのかを、1) 学習目標の相対的な重要性、および2)ロールモデルを形成し近づくための学習目標の達成にむけた努力の自己調整、の2点から検討した。2週間の基礎看護学実習に参加した大学2年生と、およそ1年間の領域別看護実習に参加した大学3年生の調査対象者に、筆者たちが作成したロールモデルを形成し近づくために達成すべき看護師の学習目標のリストを示し、対象者は1)自分がロールモデルを形成し近づくために重要だと考える学習目標の順位づけ、および2)これらの学習目標を達成するための労力の割り当てを行った。これらの課題への調査は実習の前後に行った。その結果、大学3年生を対象とした領域別看護実習の前後で有意な変化が認められた。すなわち、実習前ではアセスメントに関する学習目標が相対的に重要であったが、実習後では基本的な態度や技能に関する学習目標が相対的に重要であると回答された。また、実習前は多くの学習目標に均等に労力を割り振っていたが、実習後には特定の学習目標により多くの労力を割り振っていた。これらの結果は、実習の経験によって、基本的な態度の重要性を認識すること、および学習目標の達成に向けてなにを努力するべきかの見極めができるようになることを示唆している。
ロールモデル、自己調整学習、臨地実習、学習目標、看護系大学生
Role model, self-regulated learning, clinical practicum, learning goal, nursing students
本研究は、液体石鹸を用いた泡の洗浄と拭き取り時の皮膚表面pH・経皮水分蒸発量(以下;TEWLとする)・角層水分量・角層膜厚の違いについて実験的に明らかにすることを目的とした。研究の趣旨に同意の得られた女子学生12名を対象とした。弱酸性液体石鹸をよく泡立てて、その泡を前腕屈側中央部位に5分間塗布し、洗浄および拭き取りを統一した手順で行った。泡の除去間隔は5分間、測定項目は皮膚表面pH・経皮水分蒸発量・角層水分量・角層膜厚で測定回数は洗浄および拭き取り1回後、2回後、3回後、4回後、4回目洗浄および拭き取り後10分から60分後まで10分毎に測定した。
その結果、洗浄と拭き取りでは、皮膚表面pH、TEWL、角層水分量、角層膜厚の変化パターンに差はなかった。皮膚表面pHは、洗浄および拭き取りともに4回の泡除去から泡除去後60分経過しても皮膚表面pHの値は実験前より有意に高い値を示した。TEWL、角層水分量、角層膜厚は、洗浄および拭き取りともに泡除去1~4回後の各測定値は泡除去前の測定値に比べ有意に差があり、泡除去後10~60分後の各測定値と泡除去前の測定値に有意な差は認めなかった。本研究においては、液体石鹸の泡の除去方法の違いによる皮膚表面の違いはないことが示唆された。
液体石鹸、清拭、洗浄、皮膚バリア機能
liquid soap, bed bath, cleaning, skin barrier function
本研究の目的は、在宅終末期ケアに携わる訪問看護師の倫理観の実態を明らかにし、看護倫理観向上のための教育プログラム構築に向けた具体的な提言をすることにある。研究協力者は、在宅終末期ケアの経験のある訪問看護師26名(全員女性)である。研究協力者に半構造化個人面接を行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析を行った。結果、在宅終末期ケアに携わる訪問看護師の看護倫理観の中心を成していたのは、利用者が【日常の営みの中で穏やかに過ごせる】ことであった。訪問看護師は、利用者の多様な生活・価値観を理解するよう努めていたが、一方で、自分の考えを正しいと思いながらも、【利用者の意向を自分の価値観より優先させる】ことがよいことであると考えていることが明らかとなった。在宅終末期ケアに携わる訪問看護師の看護倫理観向上のための教育においては、訪問看護師が、利用者の真の思いを捉えること、自らがよいとする価値観を超えて利用者の意向を尊重すること、タイミングを逸することなくケアに応答することの倫理的意味を理解できることが重要である。そのためには、自己の看護実践をケアリングや倫理原則の観点から振り返ることが必要である。
在宅看護、訪問看護師、終末期ケア、看護倫理、M-GTA
home nursing, visiting nurse, end-of-life-care, nursing ethics, M-GTA
目的:本研究では、初産婦における腹圧性尿失禁の発症と妊娠中期から行う骨盤底筋訓練の有効性及び下半身の活動量としての歩数の関係を明らかにすることを目的とした。
対象及び方法:対象は、正常な妊娠経過が予測され、研究の趣旨に同意が得られた初産婦である。妊婦の希望により骨盤底筋訓練の実施群23名と訓練を行わなかった非実施群12名、合わせて35名を対象とした。骨盤底筋訓練は、遅筋繊維を強化するための10秒間収縮の長い訓練を20セット(以下、訓練長)と速筋繊維を強化するための1~2秒間収縮の短い訓練を10セット(以下、訓練短)を実施することとした。
結果:妊娠中における全体の尿失禁の有症数(率)は、19名(54.3%)であった。時期別有症数は、妊娠初期11名(31.4%)、妊娠30週16名(45.7%)、妊娠37週15名(42.9%)であった。産後4・5日においては、18名(51.4%)であった。骨盤底筋訓練の実施群と非実施群における時期別尿失禁の有症率に有意な差はなかった。実施群の訓練長の実施状況は平均6.7±5.9セット、訓練短は平均5.8±2.7セットであった。妊娠中の平均歩数は、実施群5,183.0±507.0歩、非実施群4,057.9±553.8歩であり、骨盤底筋訓練の実施群が非実施群より有意(p<0.001)に多かった。さらに、妊娠週数毎の歩数を尿失禁の有無別に比較すると、歩数の多少は尿失禁の有無に有意(p<0.001)に関係していた。
結論:妊婦の腹圧性尿失禁を予防するために、妊娠中から行った骨盤底筋訓練が有効であるとは言えなかった。一方、妊娠中の歩数においては、腹圧性尿失禁を予防するために歩数を増やすことの意義が示唆された。
初産婦、腹圧性尿失禁、骨盤底筋訓練、歩数、保存的療法
Primipara, Stress urinary incontinence, Pelvic floor muscle training, Number of steps, Conservative treatment
乳がんに関する国内文献から若年性に焦点をあて、若年性乳がんにおける看護研究の課題を明らかにすることを目的とした。医中誌Web版Ver.5、Jdream Ⅲ、Ciniiから1983年~2013年において「若年性乳がん」「若年性乳癌」「若年乳がん」「若年乳癌」の検索語を用い、原著または看護に有用な示唆を含む文献を概観した。治療や診断技術のみに言及している内容は除いた。26件の文献を抽出し、内容は支援体制、妊孕性の保護、検診、情報提供、家族関係、患者ケアの6つに分類された。妊孕性の保護や情報提供について多職種連携の必要性は指摘されているが具体的な支援方法や内容の詳細は一施設の取り組みだった。患者ケアは終末期の事例研究に限られていた。乳がん体験者との交流による乳がん検診関連の啓発活動が示されているものの若年者に対象を特化してはいなかった。以上より、若年性乳がん患者に対する看護研究の課題として次の3点が必要である。1.さまざまな段階の臨床経過の現象を記述し看護師の介入を分析する事例研究、2.一施設に限らず多施設を対象にして、どのような構成の支援体制でどのような支援が望ましいのか、妊孕性や治療選択について若年性乳がん患者への具体的支援の方法論の開発、3.乳がん体験者や家族または遺族との交流を活用した若年者への乳がん検診導入への動機づけや自己検診の教育
乳房腫瘍、若年性乳がん患者、総説文献
breast cancer, younger breast cancer patients, literature review