心疾患患者の生活指導の改善とその効果 | 上田久江ほか |
医療交流を考える ―ナホトカ市の患者さんの看護を振り返って― |
曽田美佐子ほか |
看護者のガン告知に対する意識調査 ―文章完成法テストの分析を通して― |
石橋照子ほか |
専任教育担当者による新人教育の試み | 石橋典子ほか |
看護教育カリキュラムへの提言 | 長崎雅子ほか |
臨床看護実習におけるスタッフ・ナースの参加に関する一考察 ―臨床実習指導者とスタッフ・ナースの共働的実習指導をめざして― |
藤原ヒロコほか |
21世紀に向けた地域看護卒前教育カリキュラム・デザインの開発 | 斎藤茂子ほか |
看護系学生への保健所におけるCommunity-based Educationの検討 | 福澤陽一郎ほか |
コミュニティ・ヘルスケア教育への生命倫理プログラムの導入 | 塩飽邦憲ほか |
看護婦の精神的健康とストレスに関する文献的研究 | 落合のり子 |
虚血性心疾患の完全治癒は難しいため患者は退院後も自己管理が必要となってくる。そのため、入院中から疾病の特質を理解し、自己管理への意識づけが重要となる。
当病棟では、「心臓病のしおり」という手製のテキストを用い指導を行ってきた。しかし統一した指導体制がなく、看護計画をたて看護婦個々が指導を行なってきた。そのため、適切な時期に必要な指導ができ得なかった。今回、指導内容、方法を統一し、媒体として実物提示や映像(VTR)を取り入れた。
その結果、「理解しやすい、関心がわく」との評価を得、患者自身の自己管理への意欲につなげることができた。
患者教育 退院指導 心疾患患者の看護
この度、ナホトカ市行政府から医療交流の一環として島根県に対し患者の治療依頼があり、当病院で引き受けることとなった。
外国からの患者をこのような形で看護をするのは初めてであり、コミュニケーションの基盤となることばや生活習慣が異なることから看護に困難な点が多かった。
この患者の看護を通して、今後の医療交流の推進にあたり、得られた学びと課題は以下の3点である。
1. 基本的生活習慣に関する患者のニードの充足のためには、その国の食習慣や生活習慣を事前に学習し理解しておくことが必要であり、なるべく日常生活に近い環境を提供して快適な生活を保障することに努めなければならない。
2. 患者とのコミュニケーションを図るために、事前に露日対訳表を準備した。しかし、それだけでは不十分であり身振り、手振りやお互いの表情を汲みとる努力をした。言葉は通じなくてもお互いの真心、誠意により信頼関係は築かれていくものであり、国と国の交流といえどもその基本は個人と個人の小さな努力の積み重ねによるものであることを確信した。
3. 患者の受け入れは、国と国の関係で考える必要があり、マスコミの対応や患者の院外行動、チームプレーによる医療の促進など、病院としての一定のルールづくりが求められる。
医療交流 コミュニケーション
島根県立中央病院の外科病棟においても、徐々に患者に対してガン告知されるケースが増えてきている。しかし、病名および症状を告知された患者に対して、サポートプログラムは確立されておらず、充分なケアができているとはいえない。
そこで、問題を明らかにするため、中央病院に勤務する看護婦および看護学院教員、計112名に対し「文章完成法テスト」を用いて意識調査を試みた。
本稿は、「ガン告知」に対する反応をPositive群、Neutral群、Negative群に分類し、それぞれの群が他の刺激語「ガン」「家族がガンになったら」「私がガンになったら」「ガンじゃないですかと聞かれたら」「死」「身内をガンで亡くした経験の有無」に対しどのように反応しているか分析したものである。
その結果、看護者のガンにおけるイメージと、ガン告知に対する賛否との間には関連性があること、看護者のガン告知に対する意識は、Neutral群を加えると78.5%がケースによっては告知してもよいと考えていることが明らかになった。
また、ガン告知に対する反応と、死に対する反応にも関連性が見られる。つまり、ガン告知に対する姿勢は、看護者の死生観と関連があり、今回の調査から、看護者が確固たる死生観を持つことで、少しでもよりよい死を迎えることができるよう、援助できるとの考察を得た。
SCT ガン ガン告知
平成5年度より新カリキュラムで学んだ学生をうけ入れるために、専任担当者による新人教育を実施することになった。新人が円滑に職場適応でき、看護者としてのはば広い知識・技術・態度を獲得することができることを目的として年間計画をたて、学習・体験をすすめた。教育成果は、3ヵ月ごとの評価により目標達成度を確認する方法をとった。
新人教育をすることにより、組織の中で働くことの重要性を知ることができ、看護者としての資質を身につけるための学習・動機づけがなされたと思われる。
社会の状況やWHOが示した医療の潮流からこれからの看護の目標は、人々のセルフケアをコアとした自立の支援にある。
セルフケアの概念は、オレムのセルフケア理論に基づいて、セルフケアはサポート、ヘルプを含んだものであり、人間の依存ニーズを満たしながら自立へ向かうと考えた。日本、特に島根県では、サポート、ヘルプとしての家族的ケア、血縁内ケアを含めてとらえる必要がある。
島根県立総合看護学院において、高齢化社会に対応した総合看護教育として、地域で人々と直接触れ合う家庭訪問実習・継続看護実習を行ってきた。この経験から、これらの実習がセルフケアをコアとした自立の支援という看護の目標にむけて、個人的セルフケア能力のみでなく、家族的ケア・集団的ケア能力の総合的アセスメント能力の開発やコミュニケーション能力、QOLをめざしたケア・プラン樹立の能力の向上に向けて有効であると考えた。
社会環境の急激な変化により、人間関係が希薄化していく傾向がある。これからの看護基礎教育は、豊かな人間関係を結ぶことができる能力を発展させる教育を準備していく必要があると同時に、学生自身が社会の状況を身近に認識し、自己の役割を見つめる機会が必要であると考え、コミュニティでの実習をとりいれたカリキュラムの構築を提案する。
セルフケア コミュニティでの実習 カリキュラム 家庭訪問実習 継続看護実習
島根県立中央病院は総合看護学院の実習病院として、専任の臨床実習指導者(以下、指導者とする)が配置され、看護教員と共同で学生指導に当たり、一定の教育水準を保持してきた。しかし、この専任体制のデメリットとして、スタッフ・ナース(以下、スタッフとする)の学生指導参加が減少し、学生は、スタッフから指導を受ける機会が少なかった。そこで、1990年度のカリキュラム改正を機に、実習指導要項にスタッフの学生指導への参加を明示し、指導に当たってきた。今回、その参加状況を評価するために、指導者、看護教員を対象にスタッフの指導参加の現状と意識を調査し、臨床実習の学習効果を高めるためのスタッフの参加方法についてディスカッションを行った。その結果、スタッフと指導者の指導内容は分担されているが、スタッフの実習参加を阻む要因として、①スタッフが多忙で依頼しにくい、②スタッフの特性を生かした実習分担よりも指導者の多忙時の代替えが多いことが明確になった。今後の課題として、指導者は実習環境の人的、物的な調整役であることを認識し、学生の実習効果を高めるために、また、臨床の質的向上を図るために、スタッフの実習への参加促進という意図的な人材活用を図る必要がある。
臨床実習指導 臨床実習指導者 スタッフ・ナース参加
コミュニティの歴史的、地理的、社会的、経済的、政治的発展に即し、多様化した人々のヘルスニーズに対応できる保健婦(士)や養護教諭の能力を開発するための卒前教育の使命は大きい。
21世紀に向けて市町村を初めとする自治体では、保健・医療・福祉を一体化した地域看護活動が求められ、学校や職場では、きめ細かいメンタルヘルスへの関わり、医療機関や福祉施設などではコミュニティ・ケアのための視野の広さが問われている。また、同時にコミュニティ特性を生かし、コミュニティ発展を促すための応用力、創造力、意志決定力も問われている。
われわれは、これまでのコミュニティ・ヘルス・アプローチを軸とした教育の評価を行い、さらなる発展をめざしてカリキュラムを見直し、以下の点を柱にしたカリキュラム・デザインを開発した。
1. 多様化するヘルスニーズに対応できるためのコミュニティ科学の追求
2. 住民主体、住民参加の保健・医療・福祉・教育の統合化
3. 生涯学習の概念のもとに健康学習を位置づける
4. 学生のレディネスを踏まえた教育戦略
コミュニティ科学、ヘルスニーズ、生涯学習、教育戦略
「ゆとりある教育」「自主的、意欲的な学生の取り組み」を基本に、高齢化社会の到来や生活様式の変化に伴う疾病構造の変化、地域保健での保健・医療・福祉の連携などを看護系学生が学ぶ上で保健所のCommunity-based Educationにおける役割について検討した。
看護系学生のために、保健所では特別な教育プログラムが組めない中で、年間事業を有効に活用し、地域の社会的資源と連携をとり、様々な職種の人達の協力を得て、教育目標に到達できる工夫をした。
継続看護、訪問看護などのカリキュラムの導入により、学生の主体性や問題解決思考が育ってきているが、保健所実習を通じて1)予防への関心を高めること、2)人間、健康、環境を総合的にとらえて、全人的に問題を解決していくこと、3)健康を保持・増進するシステムや社会的資源を学ぶことは、これからの保健・医療・福祉の実践にとって重要である。
新カリキュラム導入後の教育機関の様々な工夫、学生の関心と主体的な教育への参加、保健・医療・福祉の総合化をめざす地域保健における保健所の役割などについて教育関係者がお互いに問題点を共有し、より充実した教育へ改善していく必要がある。
看護系学生 カリキュラム 保健所 Community-based Education
科学・医療技術の進歩によって価値評価を要求される医療行為が増加し、先端医療と人間の尊厳、自己決定能力と医療など多くの生命倫理問題に医療者が直面する時代を迎え、生命倫理の卒前卒後教育が必須の要素となっている。
1993年度の島根医科大学4年生を対象とし、家庭健康管理実習において取り上げられた生命倫理問題、その生命倫理問題の分析、生命倫理問題解決のための意思決定の3ステップについて分析した。家庭健康管理実習での生命倫理プログラムの特徴は、生活の場において健康管理を行うために、クライアントの生活と医療間の生命倫理問題が明確にできる点にある。学生は、クライアントの自己決定力と医療、自己決定のできない患者の治療決定、ケアをめぐるクライアントと家族との葛藤、高齢化社会におけるソーシャルサービス充実の優先権について生命倫理問題を見いだした。生命倫理問題を見いだし、分析および解決するための倫理的意思決定能力を高めるために、生命倫理の問題解決ステップの確立が求められている。また、多様な価値観から生命倫理問題を検討するために学際的専門家による生命倫理検討会を設置し、事例検討による学生の学習支援が課題となっている。
生命倫理 医学教育 コミュニティ・ヘルス 問題解決
看護婦の職業不適応としてバーンアウト(burnout)やリアリティ・ショック(reality shock)を取り上げ、文献を概観し、それらの原因や対策を検討するなかで、看護婦が他者から援助を受けにくい、いくつかの要因についてまとめた。
リアリティ・ショックは、看護教育と看護実践者間の価値観の違いが原因とされ、対策としてプリセプターシップ(preceptorship)が導入され、効果をあげつつある。バーンアウトは、日本でも多くの研究がなされているが、尺度の選定に検討を要する。バーンアウトには、ソーシャルサポートの効果が期待されるが、看護婦は、他者からの援助を受けにくい要因をもっており問題である。
(看護婦が他者から援助を受けにくい要因)
1. 医療現場の評価的雰囲気
2. 看護教育での他者への援助役割の強調
3. 交替勤務による他者との生活時間の違い
4. 学生時代からの狭い交友関係
5. 援助を受けることへの自尊心の脅威
看護学生が自立した援助者となる目標を達成するためには、人との関係の中で自己も他者も活かされながら発達することが重要である。本レポートで取り上げたような、看護婦が援助を受けにくい要因があるとすれば、それらは、看護婦の真の自立を妨げるものである。
若い看護婦達が直面している問題は、現実的な対策を講じることが可能なものもあるが、看護婦の人間としての発達を待たねばならないものもある。
精神的健康 職業不適応 リアリティ・ショック 自尊心 バーンアウト(燃え尽き現象)