看護婦の精神的健康に関して介護職員と比較検討を行なった。対象は当院(110床)の年齢をマッチさせた看護婦11名(36―57歳、平均年齢48.4歳)および介護職員11名(35―59歳、平均年齢48.4歳)である。精神的健康状態は日本版GHQ(General Health Questionnaire)60項目を用いた。
GHQ全得点は看護婦15.8±11.6点、介護職員5.4±3.0点であり、看護婦は介護職員に比べてGHQ総得点において有意に高かった。さらに、要素スケールの比較では身体的症状が看護婦3.2±1.9点に対し介護職員1.5±1.4点、不安と不眠が看護婦2.7±2.0点に対し介護職員は0.9±0.8点、社会的活動障害が看護婦1.4±1.6点に対し介護職員0.3±0.7点、うつ状態が看護婦0.7±1.9点に対し介護職員0.1±0.3点であり、看護婦は介護職員に比べて不安と不眠、社会的活動障害およびうつ状態で有意に得点が高かった。
看護婦では医師の診療補助、与薬や点滴業務、退院時計画、入院時計画も含めて様々な患者管理を行っていること、カルテの記入、さらに準夜、深夜勤務など多彩な労働条件であることなどにより、単に療養上の世話のみの介護職員の仕事とは、仕事の責任性も大きく異なっている。これらのことにより、看護婦は介護職員に比べて精神的健康が障害されているものと思われる。
看護婦 介護職員 精神的健康 General Health Questionnaire
看護教育プログラムの中の英語科目で使用されるテキストの中の問題点について、具体例をあげながら考察し、教材作成にあたっては「ことばと文化」の面からの十分な検討が必要であることを指摘した。
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看護学生に公衆衛生学教育の学生参加型問題解決教育を導入し、公衆衛生学への動機づけに関与する因子を検討した。教育後の公衆衛生学教育への満足度は、「大変満足」55%、「やや満足」41%、「普通」3%と高かった。公衆衛生学への関心は、教育前後で、「大変ある」0%から17%へ、「ややある」10%から48%へと増加した。因子分析により、公衆衛生学の関心とその関連因子との関係を検討し、2大因子として『自主的学習態度』と『地域看護志向』を抽出した。『自主的学習態度』に因子負荷の高いのは、「学習資源の自主的活用」「教育前の公衆衛生学への関心」など学生のレディネスに関係する因子とともに、「主体的教育方法の適用」のように講義後に形成された因子もあり、講義によって自主的な学習態度を育成できる可能性が示唆された。第2因子の『地域看護志向』については、「公衆衛生学満足」、「教育後の公衆衛生学への関心」、「予習復習」の負荷が高く、教育方法や教育環境により学習レディネスや満足度が変化することが示唆された。学生の多様な潜在能力を前提とし「内発的動機づけ」を重視する教育方法として、小グループ制・学生主体・問題解決型教育の採用が重要と考えられ、その導入のためには学習と講義との結合、個々の学生の成長と多様性に応じたチューター制による個別教育を可能にする教員の能力開発が重要と考えられた。
看護教育 学生参加型教育 動機づけ 学習満足度 公衆衛生学
1997年9月の健康保険の改正や公的介護保険法の成立に伴い、地域住民からの医療に対する関心、とりわけ医療・看護の「質」に関する関心が高くなっている。当院では「医療の質に関する研究会」の機能評価を1996・1997年に受けた。その結果、看護の質の評価において全国66施設の平均を下回る項目も多く、Quality Controlサークル活動を通して看護の質的向上を推進してきた我々に強い衝撃を与えた。同時に、看護管理職として、看護婦の全体教育・相互啓発を再評価する必要を強く感じさせられた。そこで、看護職に関わりの深い「ナースコール」を看護満足度のスケールとして、看護サービスを調査し、改善策を実施した後、入院患者の満足度や看護婦の意識がどのように変化したかを検討した。その結果、ナースコールの頻度は病棟の看護レベルを反映することが示唆された。また、看護婦の意識調査より、ナースコール後に動く後追い看護に比べ、ナースコール前に動く先取り看護の実施は看護婦自身の看護実践意欲を向上させると考えられた。
看護の質 ナースコール 患者満足度 先取り看護
平成9年度島根医科大学医学科入学生93名を対象に、早期医学体験実習(附属病院看護部にて半日2回実施)終了後に提出されたレポートの自由記載について、医学生の看護観と学習目標の達成度を検討した。看護観については、看護業務についての記載70件(36.3%)、労働量26件(13.4%)、看護職の重要性25件(13%)、倫理的態度20件(10.4%)、人間的感性19件(9.8%)、コミュニケーション技術19件(9.8%)、看護の本質14件(7.3%)であった。看護のある部分を観察した感想がほとんどであったが、看護全体を捉えているものが7.3%あった。実習方法については、看護業務のいくつかの紹介のみの病棟と、看護過程を説明した病棟の差が認められた。医学生に看護の本質の理解を求めるためには、看護の本質や専門性に関する概説や看護過程の解説、看護業務と看護過程の解説が効果的と考える。学習目標別の記載については、倫理観51件(15.3%)、感性44件(13.2%)、課題認識37件(11.1%)、役割理解96件(28.8%)、看護105件(31.5%)であった。倫理観や感性に関する記載が少ないことから早期医学体験の実習方法に関する再検討が必要と考えられる。
医学生 早期医学体験実習 看護観 看護の本質 看護の専門性
手術を受ける小児の不安は、母子分離、環境の変化、未知なる体験等に代表され、手術に際し母親と別れることは不安の主因といわれる。このような小児の不安を緩和し、できるだけ泣かずに麻酔を導入するためには、母親の手術室内への同伴入室が効果的であると考えた。今回、手術を受けた児の母親を対象に、アンケートによる意識調査を行い、同伴入室に対する母親の受け止め方を明らかにしていった。その結果、手術室入室時に泣いて入室した子どもは半数を超えており、その8割が母親と別れるときに泣き出していた。中でも1~3歳にその傾向が強く、児にとって母子分離は不安の主因であることがわかった。母親の児の不安に対するとらえ方は、母子分離だけでなく様々な面に向けられており、子どもの年齢によりとらえ方も異なっていた。そして、約8割の母親が同伴入室を希望しており、児の不安緩和に効果があると考えていた。しかし、同伴入室を希望しない母親もあり、今後、同伴入室を行うにあたっては、病棟のプライマリーナースとの連携及び児と母親の個別性をふまえ、効果的な同伴入室の方法を検討していく必要がある。
手術を受ける小児の不安緩和 母子分離 母親の同伴入室
島根県立中央病院では、看護局卒後教育プログラムの一環として、年一回各部署毎に看護研究を行っている。研究に関する研修会参加や研究推進委員会により研究の推進と質の向上を推進している。そして、1995年からは、研究者に対し研究計画書の作成を義務づけ、研究過程への具体的な指導を行ってきた。その結果、院外発表は増加してきたが、研究計画書作成過程が、研究論文の質を高める上で最も大きな課題となっている。研究過程において研究計画書作成はこれから取り組もうとする研究の企画を文章化し、一貫性のある研究を遂行するために必要である。そこで、当院の看護婦が研究計画書作成の段階で何を困難と感じているのか、また記述された計画書の内容でどこが問題なのかを見出し、研究推進委員会の指導のあり方を明確にする目的で調査を実施した。その結果、研究者は研究動機・研究の必要性について記述することは比較的容易であると捉えているが、データ収集と分析、論文の文章化という点に困難性を感じていることがわかった。収集したデータをどのように処理し、研究目的に適合した結果の導き方などの方法論に焦点をあてた指導が研究推進委員会の課題であることが明らかになった。
看護研究 研究計画書 研究推進委員会 卒後教育
自己主導的学習技術と問題解決能力を育成する教育法としてマクマスター大学医学部と看護学科では1960年代後半よりProblem-based Learning(PBL)を開始した。日本でもその影響を受けて主に医学教育で問題解決学習やチュートリアル学習を導入している。各大学で独自に工夫した導入形態が必要であるが、自己主導的学習を促進するカリキュラム体系が不十分であると導入に失敗する可能性もある。日本におけるPBLの導入状況は、PBLの「問題提示」「チュートリアル」の部分を改変し、カリキュラム全体でなく学年や教科の一部で導入されている。日本ではまた学生の準備、チューターの養成、評価方法が徹底されていない傾向にあった。また、日本とマスマスター大学のPBLの比較から、看護学教育にPBLを導入し、教育目標を達成するには、1)自己主導的学習導入のための学生の教育、2)学習効果を得るまで学年毎の繰り返し、3)教員の養成、4)多面的な評価方法などについて検討し、実施される必要がある。これらの改善点について洗練されたマクマスター方式を具体的に示し、より有効なPBLの導入方法について検討した。
PBL(Problem-based Learning) チュートリアル 自己主導的学習 マクマスター大学