当院の外来患者を対象に医療に対する満足度と看護の関連について検討を行なった。対象は当院(111床)内科外来を受診した患者80名(16―91歳、平均年齢68.2歳)とした。患者の医療に対する満足度については、病院機能の評価スケールをもとに聞き取りアンケート調査を行い集計した。病院機能の評価スケールは36項目のうち、主因子分析により12個の因子が抽出された。12個の因子は「医師、看護婦、一般職員の対応」「事務の対応」「巷間の評判」「費用」「建物内の快適性」「医師の技能と説明」「医療効果の自覚」「アクセス」などを表していると考えられた。また、看護婦の対応の項目と他の項目との相関では、「医師はやさしく暖かい」「医師は充分な時間をとって診察してくれる」「病院関係者は親切である」「病院関係者の態度は明るい」などの項目と特に強い相関が認められた。外来医療には事務上の対応や環境上の快適性といった診療以外のサービス業的な機能から受ける好感も、医療に対する満足度の総合的な評価において重要である。さらに、患者の看護婦に対する評価と医師および一般職員に対する評価とが連動していることが示唆された。
医療に対する満足度 看護 医療評価 外来患者
島根県立中央病院では、平成8年度から地域住民のヘルスニーズに対応し、看護婦による健康教育機能として、自己血圧測定講習会をシステムに沿って実施してきた。
講習会が受講者にとって血圧測定技法の習得の場として、また健康管理に対する行動化に向けた動機づけの場として有効に機能できたのかを知るため、講習会の全過程を終了した受講者27名を対象とした血圧測定技術評価と、行動変容に対するアンケート結果から分析した。
ほぼ全員の受講者が血圧測定技術の習得ができ、「正確な測定技術を健康管理に生かしたい」「生活の中で血圧値がどう変化するか知りたい」などの言葉が聞かれ、健康管理に対する行動化に向けた動機づけが図られた。
しかし、全過程が終了できなかった受講者もあり、今後受講しやすいプログラムを再考すると共に、受講者が生活の場で、血圧測定の習慣化ができていくようフォロー体制を確立していく必要がある。
自己血圧 講習 地域住民
人間の行動はイメージにより規定されるといわれているように学生の看護場面における行動にはその学生の看護婦イメージが影響していると考えられる。前回、島根県内の看護学生の看護婦イメージについて調査した結果、施設別、入学動機や看護婦志向性別に若干の差があることを確認した。さらに看護学生の看護婦イメージは専門教育を受ける過程でどのように変化していくのかを明らかにする目的で、追跡調査を行った。調査方法はSD法(意味微分法:semantic differential method)による看護婦イメージ調査である。
看護学生全体の平均値を昨年のデータと比較すると、8つの項目に有意水準5%でイメージ変化が認められた。中でも、看護の本質に関わる「親切な」「温かい」「礼儀正しい」などのイメージがネガティブに変化していたという結果が注目される。「親切」や「温かさ」といったイメージが看護についての専門的知識を学ぶ課程で低下するのは、それらが看護に必要ないからではない。看護学校に入学するまでのナイチンゲールや白衣の天使に代表される一種幻想的な看護婦イメージから現実的な看護婦イメージに修正されるためと推察した。さらに、短大生と専門学校生で比較すると、短大生は看護をより「魅力的」「安定した」イメージに変化させたのに対し、専門学校生は看護をより「科学的」なものへとイメージを変化させていた。
看護婦 イメージ変化 SD法 追跡調査 看護教育
今後求められる看護婦像の「やさしい、親切」「豊かな感受性」「苦痛、不安がわかる」「プライバシー、人権を大切にできる」「相手の立場を尊重した対応」を目指した看護教育方法として、公衆衛生学と保健医療制度の科目にStudent lecture方式を導入した。Student lecture方式は、「学生の教育への主体的参加と大学周辺の様々な社会的資源にふれるきっかけをつくり、学生相互にいきいき学べる」ことを目的とした。Student lecture方式で、学生が担当するのは、大きく3つのグループに分かれる。1)講義時間の30分を有効に使って、テーマ毎に自分達のまとめた内容を発表する、2)半日の施設見学の企画と各施設で学ぶ内容をまとめる、3)パネルディスカッションの企画及び内容の検討である。Student lecture方式を取り入れたことで、「学生の主体的な教育への参加」「学生の主体的な問題発見・問題解決」の面で成果がみられ、学生の30分間の発表内容、配布資料、プレゼンテーションの方法(テープ、ビデオ、OHP、寸劇)など毎回のテーマにふさわしい創意工夫がみられた。今後の課題としては、1)講義時間外にStudent lectureの準備をするために、学生の負担が大きい、2)担当した学生には、学ぶ内容が豊富であるが、聞き手の学生が主体的に考え、相互討論に参加できる内容になっていない、3)教育目標に即しての教育方法の評価があげられる。
看護教育 公衆衛生学・保健医療制度 Student lecture 社会的資源
近年、核家族化や少子化傾向に伴い、育児場面に遭遇したことのない母親が増加しており、母親の育児不安は顕在化している。このような社会環境下、低出生体重児をもつ母親の不安は測り知れないものがある。先行研究にも育児不安の内容を扱ったものは多いが、不安の程度を扱ったものは少ない。そこで今回、低出生体重児をもつ母親を対象とし、育児不安の程度と属性等との関連性、及び退院後の育児不安の内容について調査を行った。その結果、①児の基本属性と育児不安に関連性はなく、母親の年齢と育児不安については高い関連性があった。②保健婦の家庭訪問は育児不安と高い関連性があった。③低出生体重児をもつ母親の育児不安の内容は、栄養に関することが最も多く、環境、トラブルなど多岐にわたっていた。
低出生体重児 母親 育児不安 STAI
臨床実習指導者研究会では、平成8年度に、臨床実習指導者(以下指導者とする)それぞれの指導に対する考え(以下指導観とする)を明確にすることを目標に、講演会・抄読会・事例検討の研修を実施した。
研修ごとに、臨床実習指導について自分の考えを自由記載することにし、この学習方法が指導観を明確にするうえでどう影響したのかを検証した。調査内容を、「病院において展開している各看護学の実習が、授業として成立している場合に満たされてる要件」を基にした4つのカテゴリー(学生の捉え方、看護婦・指導者としての姿勢、患者の捉え方及び関わり方、実習の捉え方)に分類し、比較検討した。その結果、指導者は、実習の捉え方に対する意識が高いことが窺えた。患者の捉え方及び関わり方に対する意識は、調査上は低かったが、これは、教材観としての認識が低かったためと思われる。また研修開始時と終了時を比較すると、4つのカテゴリーすべての項目が増えており、指導者の視野が広がったことがわかる。調査内容をみると、研修開始時には、すべてのカテゴリーに関してマイナス思考で捉える内容がみられたが、研修終了時にはプラス思考となり、実習指導について具体的で前向きな姿勢が示されていた。以上から、それぞれの研修を実施することが、自己の指導観を明確にするうえで効果的であったといえる。
臨床実習指導者研究会 指導観 研修プログラム
佐田町学校保健会は、1990年から「子どもの頃からの生活習慣病予防対策」を活動の柱とし、それを推進するシステムと健康教育手法の確立を目指して活動してきた。新生児から成人に至るまで継続してセルフケアを行っていくために健康管理データベースレコードを統一化し、貧血検査、血圧や血清コレステロール測定を含めた検診と生活実態調査による情報把握システムを確立した。また、得られた情報について、ハイリスクの子どもの支援や学校給食に「カミカミメニュー」を導入するなど、医療機関、給食センターや行政機関と連携しながらネットワーク化を進めてきた。その中で、子ども達の健康に関する自己制御能力、セルフケア能力の向上が必要であり、子ども達が主体となって自分の心と身体を知り、その問題に対処できる力を身につけると同時にその過程で子ども達同士の人間関係を形成する教育の重要性が強く認識された。1992年から、検診結果や生活調査結果を子ども達とともに検討し、子ども達一人一人が自らの努力目標の設定を行うと同時に、主体的に学校や地域への啓発活動を開始した。生活習慣病に関するポスター作成や、地域の行事への参加により、その内容は家庭や地域で話題となり、自治会行事や、産業保健分野における生活習慣病予防活動にも組み込まれ、子どもから老人までの各ライフステージを網羅するダイナミックな取り組みに発展しつつある。
学校保健 健康教育 セルフケア ヘルスプロモーション コミュニティ
入院生活のアメニティーを高めることを目標にした看護職の生涯学習の一環として、便器の排尿音減音プロジェクトに取り組んだ。従来型便器(A型)を対照とし、中音域吸音材であるB型、高音域吸音材を用いたC型、遮音材料を用いたD型の改良3群の遮音性能を騒音計を用いて、検討した。糊や粘土などの遮音素材を便器と床との間に挿入することにより、排尿音は実験した部屋のベースライン騒音よりも10dBの増加に留まった。排泄行為は心理的に人に知られたくない行為であるため、たとえ便器の減音が達成されてもカーテン1枚での排泄行為は心理的抵抗があると考えられる。プライバシーとアメニティを確保する新しい機器開発や建築設計技術の開発とともに、安静を必要とする病状や期間についての医学・看護学的検討も重要と考えられた。また、本研究プロジェクトによって、中堅看護婦の主体的な生涯学習能力の向上、特に、ニーズ適合性と学習の波及性が促進された。
アメニティー 排尿音減音
現在、日本における糖尿病患者の増加に伴い、糖尿病関連医療、中でも最も有効で基本となる治療である糖尿病教育が重要となっている。当院においてもコメディカルスタッフと医師・看護婦がチームを組んで糖尿病教育に取り組んでいる。しかし、血糖コントロール不良となり再教育が必要となるケースが少なからず見られ、再教育が重要となっている。今回、自己管理していたにも関わらず肺炎を契機に血糖コントロール不良となり入院となった患者の看護にあたる機会を得、個々に即したより効果的な糖尿病再教育法を検討した。まず糖尿病教育プログラムに従った指導を実施し、さらに患者が待っている問題点にポイントを絞り指導した。また、患者本人のみの指導では限界があると考え、患者のキーパーソンと思われた妻に対しても指導を実施した。その結果、患者本人のみに対する指導以上の効果が得られた。今回の研究により、総論的で画一的な患者教育は決して効果的ではなく、患者の性・年齢・職業等を考慮し、患者の人生観、QOLの向上を目指した教育が望ましいとの結論を得た。また患者本人だけでなく、患者のキーパーソンへの指導が患者の自己管理能力をより高めることにつながると考えられた。糖尿病教育における看護婦の役割として、医師や他のコメディカルスタッフとのパイプ役となるとともに、各患者個々に合わせたプログラムを作成することも重要であると考えられた。
糖尿病 患者指導 再教育 無自覚性低血糖